ディズニー映画感想

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王様の剣

駄作とかつまらないとか言われがちな作品ですが、そこまでひどくはなくない…?
最初に結論を述べると、確かに難点や粗はあるものの見てて退屈な作品ではなかったです。

アーサー王伝説の始まりという触れ込みとパッケージイラストからド派手な王道ファンタジー物語を期待して観ると「なんかちがうな」となってしまいます。

思い切って王だのなんだのという要素は重視しないで(それはそれでいいのか?と思うけど)「一人の少年の人間的成長」を描いた作品だと考えればそこまで悪い作品ではないんじゃないかなと思います。

地味だけど。


ザ・魔法!ザ・ファンタジー!って感じのマーリンの魔法や部屋の内装は大好きですね。
荷造りや皿洗いのシーンもメリー・ポピンズみたいで楽しいです。あと音楽も全編通して好きでした。安心のシャーマン兄弟です。

魚やリスの姿でじゃれるマーリンとワートは父と息子のようにも祖父と孫のようにも見えて微笑ましい。
ポストおこりんぼと呼びたいほどのツンデレアルキメデスもかわいい。

ただ、盛り上がりに欠けるという点はそのとおりでした。地味なんですよ。

アーサー王伝説の序盤部分(剣を抜いて王になるところまで)に過ぎないのでアーサー王伝説そのものや円卓の騎士などのかっこいい部分は作中では語られません。
そもそもなんであえてその部分を映画化しようとしたのか。次回作で続きを作る予定でもあったのでしょうか。

王様、剣、魔法という超豪華ファンタジー素材を並べておきながらマレフィセントみたいな派手なドラゴン退治とか一切ないです。

敵らしい敵といえばやたらとハイテンションな老婆。その老婆を倒すのも導き役の魔法使いのじいさんで主人公は見てるだけです。
作品全体の老人率が高いのも地味な原因の一つかもしれません。

退屈ではないけどストーリーにこれといった山場がないままエンディングになってしまいます。


主人公は少年ワート(本名はアーサー)。

竜や人食い巨人を退治したい、騎士になりたいけどなれないからせめて従者になりたいと名誉を求める。
マーリンいわく「なんでも力で解決する、遅れた中世」文化に疑問を持たない少年です。

そんなワートに「授業」を通して「知恵の大切さ」を説くマーリン。

知恵で勝つには工夫することが必要で、工夫するためには様々な知識が必要。
つまり見聞を広め、考えることで「頭を働かせる」ことが知恵で勝つためには大切なんですね。

マーリンの授業の中でワートは工夫することで自分より大きな魚に立ち向かうし、リスの姿では初めて向けられる「恋」に戸惑います。
新しいことを知るたびに、マーリンの教えは意義のあるものだと思い始めるワート。

今までは言いなりになっているだけだったエクターに立ち向かってマーリンを庇えるようになったのは「小さいものも工夫次第で大きいものに勝てる」という成功体験があるから。
言うまでもなく大きいもの=エクター、小さいもの=ワートです。
今まではワートのなかで絶対的強者であったエクターはもう、勝ち目のない相手ではなくなっているんですよね。工夫すれば勝てるかもしれない相手です。

そして「正しいのは自分だけ?」というセリフは弱者が強者に打ち勝つ可能性が見えてきたことで「強者は正しい」という中世の常識にワートが疑問を感じ始めたことの表れ。
マーリンの教え、ちゃんと伝わっています。

個人的にはここが一番テンション上がる場面でした。王様の剣の山場はここです(諸説あります)

今作のヴィラン、マダム・ミム。
スカーやファシリエみたいなかっこいいやつではありませんがしっかり曲も持っています。

いい意味でローカル感がすごい。
崇高な理想や願望があるとかじゃなく、ただ嫌がらせしたい怖がらせたいというチープさ(褒めてます)。

一歩間違えば水木しげる作品と紙一重とも思えるキモカワのギリギリを攻めたデザイン、服が絶妙にダサいのも高ポイントです。トランプの柄に合わせてケンケンパするのはちょっとかわいい(笑)

ワートに「こうなりゃ死んでもらうしかないね」と言っていましたが本当に殺す気があったのか…?ただ追いかけ回して怖がらせたかっただけでは?とさえ思ってしまうほど、マーリンとのバトルもどこかゆるい。教育テレビか?
病気にするという倒し方もだし結局とどめはさしてないしでマーリンとミムは仲良く喧嘩しな、な二人なのか。

ワートとの「もっと醜い顔にもなれるんだよ」「それ以上無理だ…いえその」はもはやコントです。
変身もめちゃくちゃいっぱいしてくれてサービス精神旺盛。


マーリンがワートの従者昇格にブチ切れてバミューダに行っちゃうのはなんか唐突だなぁと思いました。
従者で満足せず王の座を目指してほしいというのはわかるんだけど、そんないきなりバミューダに家出するほど怒りマックスになる?ワートが勉強するって言い出すまではあんなに根気強かったのに。

更に言うならここからライター変わったのか?ってくらい雑な部分がどんどん出てきてそのままエンディングになっちゃうんですよね…

しかもワートはこのとき「従者になれただけでも運がいい」って言っています。
この時点で王になる気ゼロ発言なのに3分後には剣抜いてるし更にその3分後にはアーサー王万歳!って言われてるんですよ。ワートの気持ちついていかないよ。


ちなみにワートが従者クビ宣告をされたときにマーリンが「ワシのせいでロンドン行き台無しに…」って謝ってましたが、ワートはぶっちゃけ序盤の狩りのシーンから始まってたびたびドジを発揮しており(最後も武芸大会に剣を忘れる失態を犯す)普通に従者にしたくない人材なのであんまり気にすることないと思う。

オオカミからも助かるしライバルはおたふく風邪になるしそもそも予言で王になってるのでめちゃくちゃラッキーなドジなんでしょうねワートって。



話を戻して、一応ワートの擁護をすると現状のワートは相も変わらず下働きで従者にならないと開催地のロンドン行きすらままならない。それはマーリンもわかってるはずでは?
ケイの従者になる以外にもロンドンへ行く方法があるとか、ロンドンへ行かずとも王になれる方法があるとかマーリンが促しているならまだしもそういう風でもない。

ワートが王になることを信じて疑わないマーリンからすれば「従者で満足するなんて。向上心を持て」と思うかもしれないけどワートは未だ自分が王になるなんて信じられる段階ではないので…

ワートの「どうしろっていうのさ」に全力で同意してしまいました。
マーリンは「知っている側」ゆえに「知らない側」の人々を置いていきがちです。

マーリンと喧嘩別れ(?)したまま、武芸大会のためロンドンへやってきたワート。
ここからスピード展開でエンディングを迎えます。

この作品の評価がイマイチになりがちなのはマーリンバミューダ行きからエンディングにかけての唐突さと、王位を望んでいないワートが王になって終わるモヤモヤ感だと思う。

剣もあまりにあっさり抜けてしまうし…ちょっとスポットライト出て豪華な音楽は鳴ったけど…
知恵を使うどころか剣忘れるというドジしてましたが…
好意的に捉えるなら「知恵は今後のアーサー王伝説編で使うアイテムなので剣を抜くのに知恵はいりませんでした」とかかな…

というか一度抜いた伝説の剣を戻すのはアリなんですか?

ワートを王と認めたエクターに促され、ケイが頭を下げるシーン。
ケイって顔がアレだし品もないけど(失礼)めちゃくちゃ悪いやつってわけじゃないよなと序盤から思っていました。文句言いながらもワートを狩りに付き合わせてくれるし(恐らく何度もワートのドジで狩りを邪魔されてるのに)

言動こそ乱暴ですが、ケイもワートと同じ時代に生まれた人間であるがために力こそすべてという思想に染まっているだけでケイ個人の思想が暴力的というわけではないと思います。

エクターに厳しい修行を課されたときには傷付きながらも逃げ出さず取り組んでいました。卑怯な手を使って勝とうとした描写もありません。
ガサツですが、努力できる人間でもあるのは確かです。

努力の成果を発揮するチャンスすらなく、見下していたワートが目の前で王位をかっさらっていく心情はいかなるものか。
あのいろいろな感情を飲み込んだような表情はなんともいえませんでした。

騎士になることすら諦めていたのに王になってしまったワートは玉座から逃亡することまで考えていました。
伝説の剣抜いて王様になったのにこんな嫌そうなことある?

最後はマーリンが戻ってきて、ワートもマーリンがいるなら、と王になる決意をしたみたいですが「えっこれで終わり?」感が消せないラストでした。ワートはそれでいいの?

途中途中の楽しいシーンもこのエンディングの雑さで相殺されプラマイゼロ、みたいなのが本作の感想です。

つまらなくはないんだけど、オチがスッキリしないんだよね…


ちょっとアレなエンディングになってしまいましたが褒めるところが一つもないわけではないです。

物語の最後に「アーサー王となったワートは数々の伝説を残すのです」みたいなナレーションがあったらもう少し"終わり"感が出たと思うんですがこの場合だと野暮ったさがすごい。

そこでその「終わりの言葉」の役目を受け持っているのがマーリンの最後の「これから君は伝説になる、映画にもな」というセリフなんですよね。

エンディング時点のワートはとても伝説のアーサー王とは呼べません。玉座から逃げ出したいくらいですから。
でもマーリンの言うとおり、伝説のアーサー王になるのは「これから」です。

前日譚を締めるには良いセリフではないでしょうか。


王様の剣
好きか嫌いかで言ったら絶対に嫌いではないしつまらなくないのに盛り上がりに欠けるという不思議な作品でした。